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2013/03/31

人気ノート作家が編み出した“オルタナ・モレスキニズム”の金字塔。 『歩くのがもっと楽しくなる 旅ノート・散歩ノートのつくりかた』 #bungu


 『情報は一冊のノートにまとめなさい』で知られる奥野宣之氏の新刊が登場した。『歩くのがもっと楽しくなる 旅ノート散歩ノートのつくりかた』がそれだ。これは、一言で言えば、アナログノートの使い方を深掘りして到達した、オルタナ・モレスキニズムの金字塔だ。

 手帳やノートを使い、スクラップブックよろしくいろいろなものを貼り付けたりして一冊の自分だけの旅行記を作る。今回紹介する『歩くのがもっと楽しくなる 旅ノート・散歩ノートのつくりかた』(奥野宣之 ダイヤモンド社)は、そういうノートの楽しみ方について、今後の定番となるような予感を感じさせる一冊だ。
 旅のノートの楽しみ方を広く認知浸透させたきっかけのひとつがモレスキンであることに疑う余地はないだろう。そして、ノートの種類を問わず、気取らず、ありうべきもう一つのモレスキン風旅行ノートの作り方ノウハウを余すところなく開示したのが本書である。
 
 モレスキンの日本における人気が盛り上がって以降、ノートや手帳は、文字を書くのと同時に、チケットや写真などを貼り付ける、一種のスクラップブッキングツールの様相を呈している。デジタルツール全盛の現状において、紙のノートにしかできないことが再発見された。その一例がこういう使い方だったわけだ。
 モレスキンは、そのもっとも原初的な例だった。そしてブーム以降の日本のユーザーにとって、かつてのゴッホ、ピカソ、そして旅行作家ブルース・チャトウィンらが愛したモレスキンの耽美的な使い方を踏襲することは、モレスキン的な価値観や美意識を作り上げる流れの一端に加わることでもあったはずだ。ダイヤモンド社から刊行された過去二冊のモレスキン関連書はその集大成と考えることができる。堀正岳氏、中牟田洋子氏らによるモレスキンの本2冊、とくに第二弾はモレスキンフォビアを克服することがそのテーマの一つとされていた。そして実際その試みは半ばまでは達せられていた。ただ、同書の装丁はモレスキンの縦バンドをデザインしたものであり、その意味ではモレスキンの存在を広く啓蒙する役割の書籍だったと言える。

 こういう美意識に貫かれた作法でノートを作ることを、仮に「モレスキニズム」と名付けよう。そしてこのモレスキニズムとはやや異なる流れも同時に生まれている。文具ブームやライフログの考え方の浸透に従って、モレスキンでなくても、ノートを写真やチラシをコラージュし切り貼りして個人的な旅行記を作るような流れが、ノートの種類を問わずに出てきている。ある人はほぼ日手帳を、またある人はキャンパスノートを使って、自分の日記や旅行記などを作っている。
 日本製の上質でカジュアルなノート/手帳を使ってのライフログは、モレスキンの影響を受けつつも、手帳術やノート術をルーツに持つ。その意味で、“オルタナ・モレスキニズム”とでも呼ぶべきであり、本書の存在意義はそこにある。
 
 著者の奥野氏は、本書の序文で、登場する旅ノート散歩ノートを作ることについて、紙のノートが一番であり、その理由として歩くことや手作業でノートを作ることが強い身体感覚のある行為だからと語っている。 
 そして旅や散歩のおもしろさの原点とは、自分の力で何かを発見するという単純な喜びにあるのではないかとも。
 続く本編は、序章と第一歩から第五歩で構成される。
 まず序章では、旅において手書きのノートを使うこと作ることの意味と普遍性を、歴史の事例を引き合いに出して考察している。
 それはたとえば、体験を自分なりの形に残すことの意味を問い直すことでもある。その理由は、現地で得た情報を正確に持ち帰ることであり、子孫などに体験を伝えることでもある。その例としてカエサルのガリア戦記を引き合いに出している。
 また、それはノートを特定の目的のために使うことでもある。そのわくわく感については、チェコのSF作家カレル・チャペックの言葉が引用されている。
 ともあれ、読者は序章の途中に現れるオールカラーの旅ノート実物の写真に目を奪われるだろう。それは平坦なディスプレイからでは得られない、紙と紙とのレイヤーが織りなす圧倒的な「もの」の存在感だ。それはまた紙の上に積み重ねられた経験のメタファーでもあるはずだ。こういう写真が、たとえばP22にあるような「ノートで体験することがおもしろくなる」というキーワードを裏打ちし、説得力を増しているわけだ。
 ちなみに、序章終わりのコラムでは、植草甚一について触れている。モレスキンが日本で広く知られるかなり以前の段階に、日常生活で触れる紙のものを貼り付けたスクラップブックを作ったジャズ評論家の存在を紹介していることで、本書は単なるノート術のガイドとは一線を画し、歴史の中でノートの使われ方がどう変遷していったかを紹介した本の系譜に連なる存在としての資格を得ているように思える。

 つづく第一歩「ノートであこがれを醸成しよう」では、行きたい旅先に関して情報収集する方法を紹介している。ノート上に情報を蓄積する、いわば“アナログーグル”の検索履歴というわけだ。ここは微に入り細にわたって懇切丁寧と言うぐらい丁寧に紹介されている。たとえばそれはコラージュ:印刷物(地図、パンフレット、切手、はっぱなど)であり、個人的経験を徹底的に時系列に配列することを推奨している。
 そして第二歩では、旅の途中で手に入るノート作りの素材収集法とそのためのツールを紹介している。散歩や旅をしながら収集しつつ、メモするのはなにやら大変そうに思えるが、この章を丁寧に読んでいくと、決して難しくないことが分かる。
 たとえば、旅や散歩の途中でメモするとき、客観的事実の前には○を、感想など主観の前には☆を付けるなど、起こったことと感じたことの区別やあとから見たときのわかりやすさについても触れられている。その方法が簡単であり、かつ具体的にはどうすればいいのかがきちんと書かれている。
 これは同時にノート術の方法でもある。もうちょっと詳しく言えば、奥野氏の処女作である『情報は一冊のノートにまとめなさい』における、情報整理の手段としてのノート活用の方法が、旅のログノートにも応用されているというわけだ。
 それはたとえば、P108の地図記号の活用(第3歩 25 略記のために地図記号を使う)という例もそうだ。
 また、書くという経験(P114)では、それまで憶えられなかった人の名詞をノートに書くことでアタマに入り、それに関連することも入ってくるようになるという経験が開示されている。これもまた情報整理的なアプローチではある。同時に旅の一瞬一瞬を味わい尽くすための方法でもあるのだろう。
 同書にはこのほかにも、「輪郭に沿って切り抜く」(第4歩 29)とか「右と下に余白を作る」(第4歩 31)のような方法が紹介されている。
 これらの工夫はすべて、ノートを楽しく作成することに奉仕するものであり、作成=編集の具体的作法であり、見返したときによりわかりやすく、味わい深いものにするためのやりかたである。
 そしてそれらは、モレスキンのような美意識というよりは、実用性や楽しさなどを主眼にしたものに思える。それゆえに本当に誰にでもまねできそうに思える。

 また、旅や散歩に使える文具の紹介もある。小物や救急用具など、より実践的な小物が紹介されているのが、奥野氏のかつてのノート本とは違うところだろう。
 旅や散歩にノートをお供にして、経験を一冊にコラージュする。そんな楽しみ方誰にでも出来るような方法として紹介した本書。手に取れば、やってみたいと必ず思うことうけあいだ。
 個人的には、デジタルにはまねの出来ない紙の可能性を深く実感させられた。

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