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2010/12/27

『手帳なんていらない』(幸田フミ著 かんき出版刊)

 前回紹介した、『手帳はiPhoneに変えなさい』(戸田覚著 アスキー・メディアワークス刊)は、手書きの手帳で管理しているスケジュールをiPhoneでやろうという趣旨のものだった。

 今回紹介する『手帳なんていらない』(幸田フミ著 かんき出版)も、基本的な趣旨ではほぼ一致しているように思える。そしてその構成は大きく異なる。
 結論から言えば、『手帳なんて~』は、iPhoneを前提としたGoogleの各種サービスや、Facebok、Skype、twitterなどの活用ガイドである。
 第1章、第2章では、Googleの各種サービスやその応用方法について詳しく書かれている。それもiPhoneというよりは、PC上での操作の実例が詳しく紹介されている。
 それはたとえば、Gmailを使うことでSpamメールから解放されることであり、Googleカレンダーを使って予定を管理することであり、GoogleDocs上でファイルを管理・共有することでもある。
 iPhoneユーザーだけではなく、「Googleの各種サービスが人気のようだけれど、まだよく知らない」という人にも格好のガイドになるだろう。また著者の実感に基づいたGoogle入門という読み方もできる。
 続く、第3章から第5章まででは、Skype、twitter、FacebookというiPhoneと親和性の高い3つのサービスを紹介している。それも、たとえばtwitterクライアントには○○があるという形ではなく、著者本人の使い方とそれを通じた新しいつながりの体験などが紹介されている。twitterとどうつきあうかについても、たとえば「GIVE&GIVE」という著者の考えが披露されている。
 この3つの章はそれぞれのサービスの概説と入門ガイドにもなっている。また説明もiPhoneではなくPCの画面が多いので、3つのサービスについて簡単に知りたい人にも役立つだろう。
 巻末には、日本にライフハックを紹介した第一人者である田口元氏との対談が収録されている。ここでは、著者の幸田氏とのやりとりの中で田口氏が実際にどんな形でタスク管理や情報収集をしているのかが明らかにされている。たとえばメモは“裏紙に書く派”だとか、情報収集は、iPad+Googleリーダーであることだ。これら一つ一つのことがスマートフォン+クラウドサービスという幸田氏のスタイルとは違う。そのことをそこはかとなく明示しているこの対談の存在は、本書の説得力をかえって高めているように思う。つまり、ツールを使ったワークスタイルとは個人によって異なり、誰かのガイド・説を鵜呑みにしなくてもいいことが暗示されているように受け取れるからだ。

○手帳の通念を問い直す一冊
 著者の幸田氏にそういう意図があるかどうかはわからないが、『手帳なんていらない』という本は、手帳の通念を問い直す一冊ではないだろうか。
 『手帳はiPhoneに変えなさい』は、手帳の主要機能の一つであるスケジュール管理は、Googleカレンダーとの連携でiPhoneで完全に代替できるどころか、アナログにはできない数々の利点を持っていることを強調。その事実は紙の手帳に対するiPhoneの圧倒的なアドバンテージであり、紙の手帳をiPhoneに変えるべきという主張の本だった。
 『手帳なんて~』は、『手帳はiPhoneに~』に比べるとそういうニュアンスはあまりない。確かにスケジュール管理や共同作業している人たちとの調整が簡単というエピソードも出てくるが、それはごく一部のことだ。
 本書が提唱しているのは、iPhone上で利用可能な各種サービスの活用だ。それは前述のGoogleの各種サービスであり、twitterでありFacebookである。その比重は明らかに後者にある。ネット上の各種ソーシャルサービスに対する考え方、つきあいのスタンスを身につけて活用すること。それこそが本書の肝である。
 そしてそういう肝を持っている本書に『手帳なんていらない』というタイトルがついていることは、次のような新たな事実を示唆しているのではないか。
 すなわち、現時点における手帳とは、スケジュール管理やタスクということがらだけでなく、“twitterのタイムラインやSNSのつながりの中における自分”であり、常に変化していくそれらを把握する機能が求められている。それが可能なのは、手帳と同じようなサイズのiPhoneであるということではないか。
 そういう意味では紙の手帳こそ不要かもしれないが手帳はまだまだ必要ということになる。
 こういう境地の本には、iPhoneを前面に打ち出した類書の中にはまだないのかもしれない。少なくとも少数派だろう。もしあったら教えてください。よろしくお願いします。

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コメント

イッシーさん
 初期のものですが、『iPhone情報整理術』(堀正岳 佐々木正吾 著 技術評論社)は、基本を知るにはまだまだ役立つと思います。アプリなどは基本的なものを知ってからWeb情報で徐々にフォローアップしていけばいいかと。
 コメントありがとうございました。

投稿: 館神龍彦 | 2010/12/31 15:43

非常に勉強になります。最近iPhoneを買いましたが、まだまだ使いこなせません。手帳王子が、オススメするiPhone初心者向けの本は、何ですか?因みにビジネス使用がメインです。

投稿: イッシー | 2010/12/27 17:41

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