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2008/03/10

'07年11月22日付け朝日新聞「私の視点」

 表題の新聞に寄稿した原稿を以下に転載します。改行位置や、一行あたりの文字数は新聞掲載時とは違います。またひょっとしたら、
文言の一部が掲載時と異なっているかも知れません。


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朝日新聞 私の視点

◆手帳選び オーダー感覚 有名人に学ぼう


 今、文具店や書店に行くと、色とりどりの手帳が山積みになっている。とくに目につくのが、有名人の名前を冠したタイプだ。
社長や文化人がプロデュースした一連の商品は、その知名度や華やかさに手に取ってしまう。だが購入前によく考えよう。
それらは自分にとって本当に使いやすいのだろうか。




 “有名人手帳”の登場は実はここ十数年のことだ。それ以前は、会社から支給された社名入りの年玉手帳が主流だった。
業務関連の便覧や社是を含む社名入り手帳のルーツは明治時代だ。すなわち旧大蔵省の「懐中日記」と、旧日本軍の「軍隊手帳」だ。


 前者には、郵便料金一覧や年齢早見表など現在も市販の手帳に含まれている便覧の原型がすでに確立していた。




 後者には軍人の行動規範を規定した「軍人勅諭」が含まれていた。天皇が軍隊の統治権を持ち、軍人として忠節、武勇、
礼儀などの五つの徳目とその実行を説いたものだった。 年玉手帳はこれらふたつの手帳から便覧と行動規範を引き継いで作られたものだ。
現在も残るこの種の手帳に、会社の行動規範や仕事上に必要な便覧などが含まれているのは、明治時代の手帳の伝統を踏襲したものだ。




 すっかり定着していた年玉手帳に異変が起こるのは90年代である。いわゆる平成不況で企業に経費削減が求められると、
年玉手帳も支給される会社が減少してきた。手帳は会社で配られるものから、自分で買うものになったのだ。




 同じ時期、戦後日本の雇用慣習とされてきた終身雇用制の崩壊がはじまる。雇用が保障されなくなったために、
ビジネスマンは時間という資源の有限性を意識せざるを得なくなった。手帳はそれを有効に生かすツールとして見直されたのだ。

 有名人プロデュースの手帳はちょうどその頃に登場。他の市販の手帳とともに年玉手帳の減少で生まれた手帳へのニーズに、
応えることになったのだ。




 有名人の手帳の中身は良くも悪くも個性的だ。彼らは長年、市販の手帳を何種類も使い、ぴったりのものがないから自分で作り上げてしまった。
服で言えばフルオーダーのスーツである。

 これらは、彼等自身にはぴったりにできていて使いやすい。逆に言えば決して万人向けではない。手帳と一緒に並べられた専用の解説書も、
彼等の時間管理術を知るには役立つが、「この手帳を使えば有名人のようになれますよ」と誘うイメージ商品の側面もある。 さて、
ではどうやって手帳を選ぶか。それには、働くスタイルや記入欄の大きさ、デザインなどを冷静に見極めることだ。




 こういうことは、有名人の手帳解説書には書いていない。まず自分が求めているものを知り、それに一番近いものを選ぶ。
自動車や洋服の購入時には自覚しているこういう心構えを手帳を買うときにも忘れるべきではない。

 市販のものに飽き足らなければ、工夫し改良しよう。パソコンが使えるなら、自分でデザインした記入ページを作るのもいい。
メモ帳や携帯電話の併用も便利だ。

 自分を知り、自分にぴったりあったサイズや記入欄の手帳を作り上げる。有名人の手帳術に学ぶべきは、まさにこの点なのである。


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(株)アスキーを経てフリーの編集者・手帳評論家。著書に「手帳進化論」(PHPビジネス新書)「システム手帳新入門!」(岩波書店)
など


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