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2004年10月

2004/10/14

PDAはどこへゆく

・悲運の歴史 第四章の本文では、PDAについてほとんど触れていない。これは、以下のような理由による。 まずユーザーの絶対数は少なく、これから増える可能性も少ない。また製品の選択肢も少なくなっている。 とくに筆者が必須条件と考えるキーボードつきの機種は、シャープとソニーからそれぞれ数機種発売されているにすぎず、その他の機種は、 ペン入力型だ。それゆえPDAは手帳と積極的に比較する意味なしと判断して、本文中では触れなかった。 本書の主旨からは少々はずれるが、 ここでPDAの歴史を簡単に振り返ってみたい。PDAとはそもそも、’93年に、アップル・コンピュータが「Newton」 発売に際して提唱した概念「Personal Digital Assistance」の略称であったが、 それ以降に登場したペン入力型の小型デジタルデバイス、たとえばシャープの「ザウルス」シリーズや、 マイクロソフトの開発によるPocketPCなどの総称になった(*1)。誕生から現在までの歴史はひとことで言えば、 単機能の小型機器にお株をどんどん奪われるプロセスだったといえる。 まず通信機能だ。’ 90年代後半のPDAの最大のウリはメールとWebだった。当時、その高速性に注目されていたPHSと組み合わせ、 メールの送受信やWebの閲覧ができたPDAは、外出先でもインターネット接続をしたい人々に支持された。だが、’99年、 通信業界に異変の萌芽が生まれる。iモードの誕生だ。やがてこのサービスは翌2000年に会員数が600万人を超える。その後、 爆発的に普及し、携帯電話の他のキャリアとも熾烈な競争が始まる。つまり、誰もが外出先でWebやメールを閲覧できるようになったのだ。  かつてのPDAは先進的な機能を搭載していた。たとえばデジタルオーディオプレーヤー、小型ビデオプレーヤーとしての機能だ。 筆者が使っていた「G-FORT」(’00年発売 NTTドコモ)には、この2つの機能が搭載されていた。だが、 今デジタルオーディオプレーヤーといえば、アップル・コンピュータの「iPod」が人気を集めている。小型ハードディスクを内蔵し、 データストレージとしても使える。小型ビデオプレーヤーも、そろそろ各社から登場している。  PDAには辞書機能を搭載しているものも多かった。やはり筆者が使っていた「ザウルスMI‐110」(シャープ ’98年発売)には、 英和、和英などの各種辞書が搭載されており、手書き認識した文字で辞書をひくことができた。そして、 2004年には電子辞書が人気になっている。モノクロ液晶ながらフルキーボードを搭載したモデルが、学生から社会人まで広く使われている。  デジタルテキストリーダーとしての役目もそうだ。前出のザウルスには、デジタルテキストや漫画の専用配信サービスがあった。 だがこれも専門の電子ブックリーダーが登場している(*1)。 さらにいえば、携帯電話はPDA化しつつある。すでに電卓、スケジューラー、 電話/アドレス帳、メール送信・受信の機能を備えている。パソコンで使っているメインアドレスのメールをWeb越しに見るサービスもある。 カメラ機能の画像を送信する機能は、ほとんどの機種が持っているし、一部機種について言えば、ラジオ、テレビ機能すら持っている。 地上波デジタル放送の受信機能を搭載した機種が普及するのも時間の問題だ。また、専用のソフトによって、 パソコンのPIMデータと同期がとれるような機種も登場している(*2)。 肝心のデジタルデータの処理も、 ノートパソコンの進化によってメリットとしては小さくなりつつある。ノートパソコンは重量1Kgを切る機種が登場して久しく、 標準バッテリーで5時間程度動作する機種もめずらしくない。やはり筆者が所有する「モバイルギアⅡ」(NEC ’99年発売)や 「シグマリオン」(NTTドコモ ’00年発売)などは、そのキーボードのできのよさゆえの出先での文書作成や、 WordやExcelのファイルが編集できる「マイクロソフトポケットオフィス」などが便利だった。 しかしノートパソコンの性能が相対的に向上してきた今、バッテリー持続時間の長さは絶対的な長所ではなく、 重さも相対的な利点でしかなくなった。PDAよりも多少重くても、使い勝手のいいノートパソコンのほうが便利に思えるのだ。 このように、 かつてPDAが持っていた可能性のひとつひとつは、携帯電話やデジタルオーディオプレーヤーや電子辞書、 電子ブックリーダーなどそれぞれ専門化した機器によって取って代わられてしまった。これは、パソコンが、 CPUの高速化とハードディスクの大容量化、それに低価格化するプロセスの中で、ワープロ専用機やビデオ録画・編集機、印刷機などの、 周囲の家電の機能を吸収していったのとは対照的だ。・PDAは純粋化する こういったPDAの現状は、 しかしこの製品ジャンルが手帳的に使う場合にダメだと言うことを意味しない。それどころか、小型軽量でありながら、 パソコンが持つ多くの美点を継承している点で、手帳がなしえない機能を持っているといえる。 まずスケジュール機能だ。起動さえしてあれば、 スケジュールの入力はキーボードから簡単にできる(*3)。一覧性の点ではパソコンや手帳には劣るが、アラーム機能はそれなりに便利だ。  アドレスの管理はPDAの得意技の一つだ。情報を蓄積し、変更にもすぐに対応し、検索が簡単にできるのは、手帳よりも優れている。 ただし本文でも触れたように、住所の情報は、郵便物の発送時にすぐに印刷できると便利だ。そう考えると、 印刷がすぐにできないPDAで住所情報を管理する意味はあまりない。 可能性があるのは、 無線LAN機能を使ったWebブラウジングやメールチェック機能だろう。 無料または安価に利用できる公衆無線LANサービスが普及している現在、 携帯電話のようにパケット料金がかからずにネット接続ができるのはそれなりに便利だ。また、携帯電話よりも大きな液晶画面は、 一覧性に優れている。こういった接続形態の延長線上に無線LAN経由のPDA型IP電話があるのは想像に難くない(*4)。  前述のノートパソコンの性能向上のことを考えると、現在のPDAの主流がキーボードレスタイプであるのは、 それなりに必然的なことに思える。パソコンで入力されたデータを、手軽に閲覧するための目的には、キーボードは必ずしもいらない。 げんに手帳と併用する多くのユーザーがやっているのは、住所やデータの閲覧や検索なのだ。 数々の先進機能を専用機に奪われ、 新しい活用の場も未だに見えないPDAだが、次のように考えることもできる。PDAは純粋化に向かっているのではないかと思う。それは、 マルチメディアプレーヤーでも、ネット閲覧機でもなく、“検索機能付きのデジタルデータ”になろうとしているのだ。 * 1 PDAとシステム手帳との関係を語る上ではずせない機種がある。京セラから’91年に発売されたシステム手帳型PDA「リファロ」だ。 堅牢な樹脂で作られたとおぼしきバイブルサイズのバインダーを開くと、中央には開閉式の六穴リングがある。そしてその左には、 ICカード挿入スリットが2基、右にはモノクロ液晶ディスプレイと、十字キー、さらに4つの丸いボタンが備わる。ボディの重量は650g。 この中には、MS‐DOSが動作する16ビットのパソコン機能が搭載されている。リング部は非接触型のインターフェースをかねており、 オプションのリフィル型キーボードを6穴にセットすれば、そのまま文字入力ができるという。 PDAとシステム手帳を併用するユーザーが現在も多くいることを考えると、あまりにも早すぎたモデルといえるだろう。 * 2 電子ブックというコンセプトの商品は、すでに’90年代初頭にNECから発売されたことがあるが、定着しなかった経緯がある。 * 3 auが自社用機種向けに発売している「Mysync」がその一例。 *4 手書き入力タイプだとこういうときにも不利だ。 * 5 これは技術的には可能だろうし、過去のIT系展示会に出店されたこともあるが、ビジネスモデルが見えないので実現可能性は未知数だ。

※ 09年5月15日

以上の記事を加筆・修正した文章を以下の書籍に掲載しています。

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システム手帳に関するよくある誤解

 本書の主旨の一つは、システム手帳の本来の姿と可能性を、二十一世紀初頭の日本という時代にてらしてとらえ直すことである。だが、システム手帳に関する誤解は多い。本稿では“ありがちな誤解”のひとつひとつを検証することで、現在のシステム手帳を考えてみよう。

・システム手帳は分厚い
 “リフィルやカードでパンパンになったファイロファクス”。これこそよくあるイメージであり、最大の誤解である。だがよく考えると、'80年代の風景を思い出しているにすぎない。実際には今こういう状態で使っている人は少数派だ。だいたい、今や情報は手帳以外の場所、すなわち電子機器やネット上にある。逆に言えば、手帳がフォローし内部に保持すべき情報は歴史上もっとも減少しているともいえる。
 分厚いイメージは、一面の真実を伝えてはいる。システム手帳には、情報やグッズをガンガン詰め込めるからだ。綴じ手帳と違って、リフィルやカードケースなどをリング径の限界までファイルできる構造を持っているのだ。だがそうはならない理由の一つは前述のとおりだ。
 もう一つは、中身を自在にダイエットできる点だ。リフィルを大量に綴じるのも自由だが、はずして捨てるのも自由。それをしない手帳だけが分厚くなっていく。分厚い手帳はリフィルの交換や廃棄といったメインテナンスを怠った結果であり、手帳の機能を十分に発揮していない、いわばイレギュラーな状態だ。
 また、もともと薄いシステム手帳も存在する。リング径の小さい製品は、大量のリフィルを挟むのには向いておらず、スリムにして使わざるを得ない。“ナロータイプ”と呼ばれる、リフィルの幅そのものを狭くしたタイプや、もともとサイズの小さなミニ6穴のような製品もある。この点については、元の本の第三章にくわしく書いたのでそちらを参照してほしい。

・高価である
 '84年に最初に上陸したファイロファクスの「スタンダード」は、当時三万六千円だった。システム手帳の高価なイメージのルーツはこれだ。だが現在市場にある製品はもっと安価なものが中心だ。当のファイロファックスですら、エントリーモデルとして一万円台の製品を用意している。メーカーによってはもっと高級な製品もあり、全体として価格帯の幅は広くなり、選択肢は逆に増えているが、各種リフィルにしおり兼用定規まで含まれて5千円という製品すらある。
 市販の綴じ手帳が三千円程度で買えることを考えると、リフィル代だけで毎年数千円はかかるシステム手帳は割高かもしれない。だが、綴じ手帳にはないさまざまなメリットを持つ、まったく別のジャンルの製品だと考えると、高いとは言いきれないだろう。

・リングに紙がひっかかる
 これも使ってみればすぐわかることだが、リングがひっかかるような製品は現在ではほぼ皆無だ。システム手帳の金具を作っているメーカーは、数えるほどだ。国内主要メーカーの製品で使われている、“クラウゼ”ブランドだと、数万回の開閉に耐えると言われている。参考までに言えば、筆者のバインダーもこのブランドのリングだが、ひっかかりや開閉のしづらさを感じたことは一度もない。
 リフィルがリングに引っかかるもう一つの原因は、リフィルの詰めすぎだ。これも分厚くならないようにダイエットすれば、リフィルがリングにひっかかるのはさけられる。

・情報の更新ができない、リフィルが高価
 情報の更新は、リフィルの交換で可能。
インターネットが普及している現在では、Web上にあるさまざま情報を自分のパソコンに保存し、それを白紙リフィルに印刷すれば情報は簡単に更新できる。もちろん、地下鉄路線図や各種地図などは、市販の情報リフィルのほうが見栄えがいいが、こだわらなければこれも自作できる。時刻表の自作の例については、第6章に紹介したので、参照して欲しい。

・書類が挟めない
 現在のオフィスの書類サイズは、A判に統一されている。だから手帳にもこのサイズの書類にこだわるのならば、A5判のシステム手帳を利用すればいいだろう。バイブルサイズと違って、専用パンチで穴をあけ、二つ折りにすれば簡単にA4版の書類がファイルできる。
 バイブルサイズになると、さすがにA4判の書類をそのまま挟む訳にはいかない。どうしてもという場合は、第2章で触れたように四つ折りにすれば、バインダーにはさめる。だが書類が仕事相手に渡すものなら、別途書類ホルダーやクリアファイルを持ち、そこに保管して運ぶのがいい。そもそもパンチしたり、折り目がついたりした書類は、自分で参照するにはいいが、仕事の相手にそのまま渡すのには向いていないからだ。
 また、紙の書類の役割も変わりつつある。
 かつては書類=紙だった。だが、最近になって事情は変わりつつある。紙の書類は、パソコンやネットワーク上のデータのハードコピーという性格が強くなっていると思われる。
 筆者はよくこんな経験をする。打ち合わせの席で、プリントされたA4判の書類を出す。書類をたたき台に、その場でいろいろなやりとりがあり、それはA4判の書類の上に手書きで書きたされる。席を立つときには、「じゃあ、まとめなおしたものはメールしますね」となる。書類は、プリントアウトされた時点で、ネット上・パソコン上のものの紙バージョンとして使われる。
・紙の書類はデジタルデータの分身
 こういう場合、一番いいのはそこにノートパソコンがあり、やりとりのなかでリアルタイムで変更・追加点を元のファイルに反映することだ。そうすれば打ち合わせが終わった時点で、書類は完成。パソコンに通信カードや無線LANカードが装備されていればその場でコピーを相手に渡せる。受け取る方も、紙をみながら入力し直すより、このほうが手間もなくでスピードも速い。第3章で触れているようなメモリーカードを利用する方法もあるだろう。
 結論をまとめると、筆者は紙の書類を手帳で運ぶ必要はあまりないと思う。現代では、書類とは紙というよりも、デジタルデータの分身だからだ。

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